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松江地方裁判所 昭和62年(行ウ)1号 判決 1988年4月27日

甲乙事件原告

藤田義信

甲事件被告

出雲公共職業安定所長勝手絜矩

乙事件被告

右代表者法務大臣

林田悠紀夫

甲乙事件被告両名指定代理人

吉平照男

右同

川上秀夫

右同

今岡由一

右同

木村英男

右同

石田順造

右同

布野敏治

甲事件被告指定代理人

三上明道

右同

原皎

乙事件被告指定代理人

佐藤薫

主文

一  甲乙事件原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は甲乙事件とも甲乙事件原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  甲乙事件原告

1  甲事件被告が昭和五九年九月一一日付けで甲事件原告に対してなした雇用保険法(昭和四九年法律第一一六号)(以下「法」という。)による基本手当の受給資格を否認するとした処分及び基本手当の支給の期間(以下「受給期間」ともいう。)の延長を認めないとした処分をいずれも取消す。

2  乙事件被告は原告に対し九六七万二八〇〇円を支払え。

3  訴訟費用は甲乙事件とも甲乙事件被告らの負担とする。

二  甲事件被告

1  甲事件原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は甲事件原告の負担とする。

三  乙事件被告

(本案前の申立)

1 乙事件原告の訴えを却下する。

(請求の趣旨に対する答弁)

1 乙事件原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は乙事件原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  甲事件の請求原因

1  甲事件原告(以下「原告」ともいう。)は、昭和五六年四月一四日有限会社ヤマカ興産(松江市浜乃木町八〇八―四所在)(以下「ヤマカ」という。)に就職し雇用保険被保険者資格を取得し昭和五七年七月二日ヤマカを離職し、同月三日有限会社島根警備保障(松江市矢田町二―二所在)(以下「島根警備」という。)に就職したが雇用保険の交付は島根警備の都合で昭和五七年一一月一日になっているが、同月二一日から疾病のため休職し休職期間中は賃金の支払いがなく、昭和五九年六月一四日疾病は回復して島根警備に出勤したが同月一五日離職した。

2  原告は昭和五九年九月一一日甲事件被告(以下「被告安定所長」ともいう。)に対し昭和五九年八月二九日松江公共職業安定所長(以下「松江安定所長」という。)交付のヤマカを離職したことに係る雇用保険被保険者離職票(以下「離職票」という。)、昭和五九年八月二三日松江安定所長交付の島根警備を離職したことに係る離職票、ヤマカの離職に係る受給期間延長申請書を提出し受給資格の決定を求めたところ、被告安定所長は昭和五九年九月一一日付けで原告に対して、ヤマカの離職に係る受給期間延長申請については法二〇条一項括弧書に規定する受給期間延長の要件を満たさないとしてこれを認めないとする処分、島根警備の離職票については法一三条の要件を満たしていないこと、ヤマカの離職票については法二〇条一項による受給期間を経過しており受給期間の延長も認められないこと、この二枚の離職票を通算することもできないことを理由として受給資格を否認する旨の処分(以下「本件処分」という。)をした。

3  原告は本件処分を不服として、昭和五九年九月一七日付けで島根県雇用保険審査官に対し審査願を提出したが、同審査官は昭和六〇年二月五日付けで右審査願を棄却したので、原告は右審査結果を不服として昭和六〇年四月九日に同年三月三〇日付けで労働保険審査会に再審査願を提出したが、同審査会は、昭和六二年三月二五日付けで右再審査請求を棄却する旨の裁決をした。

4  受給資格には法一三条、一四条において被保険者期間を計算することが規定されており、法一三条によれば離職の日以前一年間に疾病などの理由により引続き三〇日以上賃金の支払を受けることができなかった被保険者については当該理由により賃金の支払を受けることができなかった日数を一年に加算した期間(その期間が四年を超えるときは四年間)に法一四条の規定による被保険者期間が通算して六箇月以上であったときに支給すると定められているから、二枚の離職票によって原告は雇用保険受給要件充足者となり、したがって本件処分は誤りである。

なるほど、法一四条二項一号に「基本手当の支給を受けることができる資格のある場合にはその受給資格に係る離職の日以前における被保険者期間については、これを被保険者期間に含めない」旨規定されていることは原告も認めるが、原告は受給資格手続中であるから「基本手当の支給を受けることができる資格のある場合」には該当しないのである。すなわち「基本手当の支給を受けることができる資格のある場合」とは、受給資格の決定を受けた場合をいうのであるところ、原告については受給資格の決定はされておらず原告は単なる一般被保険者にしかすぎないのに、被告安定所長は受給資格者でない原告を受給資格者として取扱うという誤りをなしたものでありしたがって本件処分は誤りである(後記六の甲乙事件被告の主張は争う)。

5  そこで被告安定所長のなした本件処分の取消を求める。

二  乙事件の請求原因

1  右のごとく本件処分をなしたのは、被告安定所長である勝手絜矩が乙事件原告(以下「原告」ともいう。)の正当な権利を無効にしたもので職権濫用による不法行為であるから、乙事件被告(以下「被告国」ともいう。)は原告のこうむった次の損害を賠償する義務がある。

(1) 四六一万円 但し、原告が基本手当受給申請をなした昭和五九年九月一一日から審査決定を受けた昭和六二年四月三日までの間の原告の作業損害の賠償金(損害日数二年六月二二日。原告が以前勤めていた月給分の月額一五万円で計算)

(2) 五〇〇万円 但し、生活に重大な損害を与えたことによる慰謝料

(3) 六万二八〇〇円 但し、昭和五九年九月一一日から同六二年六月一五日までの保険料四五万七〇〇〇円に対する年五分の割合による遅延損害金

三  乙事件の本案前の申立の理由

1  原告は甲事件における昭和六二年六月一五日付原告準備書面をもって被告安定所長を被告として損害賠償を求める訴を提起した。

2  ところで、原告は、甲事件の第三回口頭弁論期日(昭和六二年九月三〇日)において、本件訴えの被告を被告安定所長から国に訂正する旨の申立を行っているが、右のごとき当事者の表示の訂正は許されるべきでない。

すなわち、当事者確定の基準については、客観的で明確な訴状の記載全体から当事者を確定すべきものとする表示説を採用すべきところ、原告の前記準備書面にあっては被告を被告安定所長と表示しているのであって、その記載内容から国を被告として表示したものとみる余地は全くないのであるから、当該損害賠償請求訴訟は、原告と被告安定所長間に係属しているというべきものである。

しかるに、右の場合に被告の表示を被告安定所長から国に訂正することは、原告が行政事件訴訟法二一条の規定に基づくことなく任意に当事者を変更することを意味し、もとより法の許容するところではない。

3  したがって、乙事件は、原告と国との間では適法に係属しているとはいえないものであるから、却下されるべきである。

四  甲事件の請求原因に対する甲乙事件被告の認否

1  請求原因1の事実のうち、原告が昭和五六年四月一四日ヤマカに就職し雇用保険被保険者資格を取得し昭和五七年七月二日ヤマカを離職したこと、その後島根警備に再就職し昭和五七年一一月一日被保険者資格を取得し昭和五九年六月一五日島根警備を離職したがその間において昭和五七年一一月二一日から疾病のため賃金の支払を受けなかったことは認め、その余の事実は不知。

2  請求原因2、3の事実は認める。

3  同4の主張は争う。

五  甲乙事件被告の本件処分の適法性についての主張

1  基本手当の受給資格を取得するためには、法一三条により、被保険者が失業した場合において、離職の日以前一年間に法一四条の規定による被保険者期間が通算して六箇月以上あることが必要であるところ、原告の島根警備に係る離職票については原告が昭和五七年一一月一日に就職し同日被保険者資格を取得したが同月二一日から昭和五九年六月一四日までの五七三日間については病気により引き続き欠勤し賃金の支払を受けることのないまま同月一五日島根警備を離職したことにより、対象となる被保険者期間が一四日しかなく受給資格を満たしていないため同離職票について法一三条不該当処分を行ったものである。

もっとも、ヤマカの離職の日以前一年間に被保険者期間が六箇月以上あるけれども、法一三条の被保険者期間の計算については法一四条二項一号により最後に被保険者となった日前に当該被保険者が受給資格を取得したことがある場合には当該受給資格に係る離職の日前における被保険者であった期間を法一三条の被保険者期間に含めないこととされているから、原告はヤマカの離職の日以前一年間に被保険者期間が六箇月以上あることによって受給資格を取得したため、ヤマカ離職の日前における被保険者であった期間を法一三条の被保険者期間には含めることが許されず島根警備の被保険者期間にこれを通算して受給資格があるということはできない。

この点について、原告は、ヤマカの離職の日以前一年間に被保険者期間が六箇月以上あることだけでは受給資格を取得したことにならず、「基本手当の支給を受けることができる資格のある場合」すなわち受給資格を取得した場合とは、受給資格の決定を受けた場合をいうのであって、原告は受給資格手続中であるにすぎず受給資格の決定を受けていないから原告を受給資格取得者として取扱うのは誤りであり、ヤマカ離職の日前における被保険者であった期間を法一三条の被保険者期間に含めて島根警備の被保険者期間に通算すべきである旨をいうが、受給資格は、法一四条一項の規定によって計算された被保険者期間が六箇月以上に達することによって当然に取得されるものであって、公共職業安定所長の受給資格の決定を待って取得されるものではない。

すなわち雇用保険法は失業給付を行うことができる旨を規定し(法三条)、失業給付には、求職者給付及び就職促進給付があり(法一〇条一項)、求職者給付には、基本手当、技能習得手当、寄宿手当及び傷病手当がある(法一〇条二項)が、これらのうち失業者が求職活動をする間の生活の保障を図るために支給される基本手当が失業給付の核心をなしているところ、失業者が基本手当の支給を受けるためには法一三条による受給資格を有することと法一五条の失業の認定を受けることが必要であり、法一三条は基本手当の支給を受けるための受給要件として離職の日以前一年間(離職の日以前一年間に、疾病等の理由により引き続き三〇日以上賃金の支払いを受けることができなかった者については、当該理由により賃金の支払いをうけることができなかった日数を一年に加算した期間とし最大限四年間とする。)に被保険者期間が通算して六箇月以上あることを要件としており、傷病者等に対する右受給要件の緩和は、離職前の一年間を対象としたことにより長期にわたり被保険者であったにもかかわらずたまたま離職の日以前一年間における被保険者期間が疾病等の事由により六箇月に満たない結果となる者を支給対象から除外することは一年未満の雇用期間の者でも六箇月以上被保険者期間があれば毎年くりかえし基本手当の支給が受けられることに比して著しく不均衡であることを考慮したものであり、法一五条は、受給要件を満たす者が基本手当の支給を受けるには公共職業安定所へ出頭し求職の申込みを行うことにより失業していることの認定を受けることを要求し、その際の手続きは、基本手当の支給を受けようとする者は管轄公共職業安定所に出頭し離職票を提出しなければならず、この場合その者が二枚以上の離職票を所持しているとき(例えば、A事業所に四箇月間勤務した後B事業所に転勤し、そこで三箇月間勤務して離職した場合等には二枚以上の離職票を所持することがある。)はそのすべての離職票を、また、法二〇条の受給期間延長の通知書の交付を受けているときは当該延長通知書をあわせて提出しなければならず(雇用保険法施行規則(以下「則」という。)一九条一項)、管轄公共職業安定所の長はその提出された離職票によって、その者が基本手当の受給資格(法一三条)を満たすと認めたときはその者が失業の認定を受けるべき日を定め、受給資格者証(則様式第一一号)を交付し(則一九条二項)、この場合、二枚以上の離職票の提出があった場合の受給資格の決定は前後の離職票とも単独で受給資格を満たしている場合は後の離職票のみにより受給資格の決定を行い、前後の離職票とも単独で受給資格を満たしていない場合は前後の離職票により受給資格の決定を行い、前の離職票は受給資格を満たしているが後の離職票は受給資格を満たしていない場合は前の離職票のみで受給資格の決定を行い、前の離職票は受給資格を満たしていないが後の離職票は受給資格を満たしている場合は後の離職票により受給資格の決定を行い、三枚以上の離職票を提出した者については、古い離職票から順に受給資格を満たす離職票ごとに一括しその一括された最後の離職票に基づいて受給資格の決定を行う手続がとられるが、右に見られるごとく受給資格の決定なるものは受給資格取得者であることを公共職業安定所長が確認する行為にすぎず、受給資格の取得は受給資格の決定を待つまでもなく、右決定前に法一四条一項の規定によって計算された被保険者期間が六箇月以上に達することによって当然に取得されるものなのである。

そして法一四条二項一号の実質的理由についてみるに本件において原告はヤマカの離職票では被保険者期間が六箇月以上あり受給資格を具備していたのであるが、これに基づいて失業の認定を受けていなかったため基本手当の支給を受けておらず、他方島根警備の離職票では被保険者期間が一四日しかなくこの島根警備の離職票のみでは被保険者期間が足りず受給資格を有しないため前記二枚の離職票を提出し法一三条括弧書の規定により通算での被保険者期間が六箇月以上あるとして受給資格の決定を求めたのに対し、被告安定所長は、被保険者期間の計算について規定する法一四条がその二項一号において、最後に被保険者となった日以前に当該被保険者が受給資格を取得したことがある場合には当該受給資格に係る離職の日以前における被保険者であった期間は後の離職による基本手当受給の要件である被保険者期間には含めないとされているため法一三条括弧書の要件にも該当しないとしたものであるところ、法二〇条一項は、「基本手当は、・・・当該基本手当の受給資格に係る離職の日の翌日から起算して一年(略)の期間内の失業している日について、二二条一項に規定する所定給付日数に相当する日数分を限度として支給する。」と規定し、受給資格ある者が離職したときは離職後一年間はいつでも、失業していることの認定を受けさえすれば所定日数の範囲内で基本手当を受給できる、すなわち、受給資格者は離職と同時に失業認定を受けた日について基本手当の支給を受け得る地位を取得するのであり、再就職したことにより失業期間が殆んどなかったり失業認定を受けなかったりして現実に基本手当を受けなかった場合でも、離職後一年間の期間の満了により前記支給を受け得る地位は消滅するものとしているのであり、その趣旨は、大量に発生する離職者を一律に処理するためばかりでなく、失業認定を受けさえすれば基本手当を受給できる地位はこれを背景として再就職活動をなし得ることとなり法は右地位を雇用保険制度上の一種の利益としてとらえていることによるものと考えられ、この理は再就職した後再び離職した場合も同様であって前の離職による支給を受ける地位に基づき基本手当を受給できる場合は格別、その地位が期間の満了により消滅しているときは当該労働者は前の離職による雇用保険制度上の利益を前記の限度で既に享受したものとして再就職後の離職に係る被保険者期間には既に受給資格を取得した被保険者期間を算入しないこととしたものであり、仮に法一四条二項一号が存在しない場合を想定すると、離職により受給資格を取得した者は基本手当を受け得る地位を背景として再就職活動をなし得る上、短期間に再就職離職を繰り返した場合にはその最後の離職の日を選択することにより更にそれ以降の一年間について前記の地位を保有し得ることとなり、事実上その利益を一年以上にわたって享受し離職者について一律に処理しようとする法二〇条の趣旨に著しく反する結果となるのであって、法一四条二項一号の実質的理由は右の点に求められるものである。

2  また、受給資格を満たしているヤマカの離職票についてみると、基本手当の支給を受けることができる期間(受給期間)は、法二〇条一項の規定により、基本手当の受給資格に係る離職の日の翌日から起算して一年間であるが、原告が出雲公共職業安定所に出頭した昭和五九年九月一一日の時点でヤマカの離職の日の翌日である昭和五七年七月三日から起算して一年間を経過しているため、同離職票について法二〇条一項不該当処分を行ったものである。

3  したがって、本件処分は正当であってこれを取り消すべき理由は存しないから、原告の本訴請求は失当として棄却を免れない。

六  乙事件請求原因に対する認否

争う。

第三証拠(略)

理由

第一  乙事件の本案前の申立についての判断

一  一件記録、当裁判所に顕著な事実によれば、原告が甲事件における昭和六二年六月一五日付で準備書面と題する書面(以下「準備書面」という。)を当裁判所に提出したこと、右準備書面には被告として「島根県出雲市塩治有原町一丁目五九番地出雲公共職業安定所長勝手絜矩」の記載があり、本件処分を不法行為であるとして損害賠償を求める旨の記載があったこと、裁判長から原告に対して右準備書面にいう被告とは、国であるのか行政庁(出雲公共職業安定所長)であるのか勝手絜矩個人であるのか明確にするよう求釈明がなされ、原告は勝手絜矩個人ではない旨答えたが、国であるのか行政庁であるのかは留保する旨答えたこと、その後右準備書面の被告国に対する送達がなされたのち、原告は甲事件の第三回口頭弁論期日(昭和六二年九月三〇日)において乙事件の被告を「出雲公共職業安定所長」としていたのは誤につき「被告国」に訂正する旨主張したことを認めることができる。

二  被告は右準備書面の記載内容から国を被告として表示したものとみる余地は全くない旨主張するけれども、右求釈明と答弁とを前提にし、かつ、右準備書面の記載が出雲公共職業安定所長の違法な職務行為に基づく損害賠償請求であること、公権力の行使に当たる公務員の職務行為に基づく損害については国又は公共団体が賠償の責めに任じることとされているのであって当該公務員は行政機関としての地位においても個人としても被害者に対しその責任を負担するものではないこと、出雲公共職業安定所長は国の出先機関である出雲公共職業安定所の長であることを考え合わせると被告は国又は国の出先機関を表示しようとしたものであるとみる余地はあるというべきであり、すくなくとも被告の表示を訂正して国とすることは許されるものと解するのを相当とするから、被告国の本案前の申立は理由がなく、採用することができない。

第二  甲事件の請求について

一  甲事件の請求原因1の事実のうち、原告が昭和五六年四月一四日ヤマカに就職し雇用保険被保険者資格を取得し昭和五七年七月二日ヤマカを離職したこと、その後島根警備に再就職し昭和五七年一一月一日被保険者資格を取得し昭和五九年六月一五日島根警備を離職したがその間において昭和五七年一一月二一日から疾病のため賃金の支払を受けなかったことは原告、被告ら間に争いがない。甲事件の請求原因1の事実のうちその余の事実は(証拠略)により認めることができ、他に右認定に反する的確な証拠はない。甲事件請求原因2、3の事実は原告、被告ら間に争いがない。

二  甲乙事件被告主張の本件処分の適法性について検討する。

1  島根警備の離職票については原告が被保険者資格を取得したのが昭和五七年一一月一日であるが同月二一日から昭和五九年六月一四日までの五七三日間について病気により引続いて欠勤し賃金の支払を受けることのないまま同月一五日島根警備を離職したから、離職の日である昭和五九年六月一五日以前一年と五七三日の期間内の島根警備における被保険者期間(法一四条。以下同じ。)が一四日しかなく被保険者期間が六箇月以上あることを要件と定める法一三条の受給資格要件を満たしていないことが明らかである。

2  (島根警備の離職票とヤマカの離職票とにより被保険者期間を通算することについて)島根警備の離職の日である昭和五九年六月一五日以前一年と五七三日の期間内における島根警備での被保険者期間一四日にヤマカでの被保険者期間を通算すれば六箇月以上となることは弁論の全趣旨によって認めることができるところ、右通算が許されるかについてみると、法一三条の被保険者期間の計算については法一四条二項一号により最後に被保険者となった日前に当該被保険者が受給資格を取得したことがある場合には当該受給資格に係る離職の日前における被保険者であった期間を法一三条の被保険者期間に含めないこととされており、原告はヤマカの離職の日前一年間に被保険者期間が六箇月以上あることによって受給資格を取得しているから、ヤマカの離職の日前における被保険者期間を法一三条の被保険者期間に含めて通算することができないというべきである。

右のように解すると、受給資格を取得後離職した者が離職後一年間失業しておれば基本手当を受給できるのに、離職後直ちに再就職して直ちに疾病となり給料の支給を受けることなく先の離職後一年を経過した後再就職先を離職した場合は、再就職先における被保険者期間が六箇月未満であるが故に再就職先の離職票では基本手当を受給できず、当初の就職先の離職票でも当初の離職後一年を経過しているが故に基本手当を受給できず、二枚の離職票による被保険者期間の通算も法一四条二項一号によって断たれることになって、前の場合と比較して不利益であるかの如くではあるが、後の場合でも先の離職後一年間はいつでも失業認定を受けさえすれば基本手当を受け得る地位を享受していたことは否定できず、大量に発生する離職者を一律に処理する必要がある以上、法一四条二項一号の規定はまことにやむをえないものである。

3  原告は、ヤマカの離職の日前一年間に被保険者期間が六箇月以上あるだけでは受給資格を取得したことにはならず、受給資格の決定を受けた場合に初めて受給資格を取得したことになる旨主張するが、法一三条が「基本手当は、被保険者が失業した場合において、・・・次条の規定による被保険者期間が通算して六箇月以上であったときに、この款の定めるところにより、支給する。」と定め、法一五条第一項が「基本手当は、受給資格を有する者(・・・)が失業している日(失業していることについての認定を受けた日に限る。以下この款において同じ。)について支給する。」と定めているところ、右定めの文理解釈からして、ヤマカの離職の日前一年間に被保険者期間が六箇月以上あるということのみによって当然に受給資格を取得したことになるのであって、失業の認定ないし受給資格の決定を受けた場合に初めて受給資格を取得したことになるものではないと解するのを相当とするから、原告の右主張は理由がない。

4  ヤマカの離職票については、受給資格を満たしているが、基本手当を受けることができる期間(受給期間)は法二〇条一項により基本手当の受給資格に係る離職の日の翌日から起算して一年間であるところ、原告が出雲公共職業安定所に出頭した昭和五九年九月一一日の時点でヤマカの離職の日の翌日である昭和五七年七月三日から起算して一年間を経過しているから、右離職票によって基本手当の支給を受けることができないことは明らかである。

5  してみれば本件処分は適法であるというべきである。

第三  乙事件の請求について

本件処分が適法であることは右にみたところであり、そうとすれば本件処分が違法であって不法行為であることを前提とする乙事件の請求はその余の点を判断するまでもなく理由がないことが明らかである。

第四  してみれば原告の請求は甲乙事件とも理由がないから棄却すべく、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 八丹義人 裁判官 辻川昭 裁判官 高橋裕)

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